水戸地方裁判所 平成7年(ワ)524号 判決 1998年5月14日
原告
甲野次郎
右訴訟代理人弁護士
戸張順平
被告
興亜火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
辰馬輝彦
外一名
被告ら訴訟代理人弁護士
鈴木祐一
同
西本恭彦
同
野口政幹
同
水野晃
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告大東京火災海上保険株式会社は、原告に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告興亜火災海上保険株式会社は、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、いずれも普通傷害保険契約に基づく死亡保険金請求事件である。
二 争いのない事実等
1 被告らは、いずれも損害保険事業を目的とする会社である(争いがない。)。
2 原告と大東京火災海上保険株式会社(以下「被告大東京火災」という。)は、次の二口の保険契約を締結した(争いがない。以下、それぞれ「本件保険契約一」、「本件保険契約二」という。)。
(一) 契約締結日 平成五年九月九日
保険の種類 普通傷害保険
被保険者 甲山太郎(原告の父)
保険金受取人 原告
死亡後遺障害保険金額
金一〇〇〇万円
保険期間 平成五年九月九日から平成六年九月九日午後四時まで
(二) 契約締結日 平成五年九月九日
保険の種類 普通傷害保険
被保険者 甲山太郎(原告の父)
保険金受取人 原告
死亡後遺障害保険金額
金三〇〇〇万円
保険期間 平成五年九月九日から平成六年九月九日午後四時まで
3 原告と被告興亜火災海上保険株式会社(以下「興亜火災」という。)は、平成五年九月二七日次の保険契約を締結した(争いがない。以下「本件保険契約三」という。)。
保険の種類 普通傷害保険
被保険者 甲山太郎(原告の父)
保険金受取人 原告
死亡後遺障害保険金額 金五〇〇〇万円
保険期間 平成五年九月二七日一〇時から平成一〇年九月二七日一六時まで
4 本件各保険契約には次の約款が存在する(争うことが明らかでない。)。
(一) 保険契約者又は保険金を受け取るべき者の故意により生じた傷害に対しては保険金を支払わない。
(二) 他人を被保険者とする保険契約について、保険契約の際、被保険者の同意を得ていなかったときは、保険契約を無効とする(ただし、死亡保険金受取人がない場合にはこの限りではない。)。
(三) 重複保険契約の告知義務、通知義務
(1) 保険契約締結の際、保険契約者又は被保険者が、故意又は重大な過失により、保険者に対し、保険契約申込書の記載事項について知っている事項を告げず、また、不実の事項を告げたときは、保険者は、保険証券記載の保険契約者の住所に宛てた書面により、その保険契約を解除することができる。
(2) 保険契約者又は被保険者(これらの者の代理人を含む。)は、保険契約締結後重複保険契約を締結するときはあらかじめ、重複保険契約があることを知ったときは遅滞なく、書面をもってその旨を保険者に通知し、承認を請求しなければならない。保険者は、右重複保険契約の事実があることを知ったときは、その事実について承認請求書を受領したと否とを問わず、保険証券記載の保険契約者の住所に宛てた書面により、保険契約を解除することができる。右解除がされたときは、保険者は、重複契約の事実が発生した時以降に生じた事故による傷害に対しては保険金を支払わない。
5 本件各保険契約の被保険者甲山太郎(以下「亡太郎」という。)は、平成五年一〇月一二日午後一〇時から翌一三日午前六時までの間に水戸市石川町<番地略>の住居において、同棲中の甲田花子(以下「亡花子」という。)とともに、何者かにより頭部を殴られて、負傷し、これにより死亡した(争いがない。以下「本件殺人」又は「本件殺人事件」という。)。
6 原告は、被告らに対し、それぞれ、平成六年四月四日に本件各保険契約に基づく死亡保険金の請求手続をし、同月一九日到達の内容証明郵便により右保険金の支払を催告したところ、被告大東京火災は、同年一二月二六日付内容証明郵便で、重複保険契約の通知義務違反を理由として、被告興亜火災は、同日付内容証明郵便で、重複保険契約の告知義務違反を理由として、それぞれ本件各保険契約を解除する旨通知し、これらは、原告に到達した(甲七、八の各一、二、第九、一〇、弁論の全趣旨)。
7 本件訴状送達の日の翌日はいずれも平成七年一〇月二六日である。
三 本件における争点
1 本件殺人は、本件各保険契約の保険契約者兼死亡保険金受取人である原告の故意によるものであるか否か。
2 本件各保険契約が被保険者である亡太郎の同意を得て締結されたか否か。
3 本件各保険契約において、重複保険契約の通知義務、告知義務違反があったか否か。
第四 当裁判所の判断
一 本件殺人は原告の故意により生じたものであるか否か。
1 原告と亡太郎との関係について
(一) 原告は、亡太郎と母○○間の長男として出生したが、原告が中学三年生当時に両親が離婚して、亡太郎が住居を出た後は、母親とともに生活していた。そして、昭和六二年一〇月二日に、甲野月子(以下「月子」という。)と、それぞれの子一名を連れて婚姻し、婚姻後二子をもうけた(甲一、二、三〇、乙一五)。
(二) 他方、亡太郎は、先妻と離婚後殺害されるまで二〇年来、亡花子と水戸市緑町及び石川町などで同棲し、内縁関係にあった。そして、亡花子の長男甲田一郎(以下「一郎」という。)とも親子のような親しい付き合いをしており、一郎も九月九日の亡太郎の誕生日には自宅に亡太郎らを招待し、本件殺人事件当夜も妻子を連れて亡太郎、花子宅を訪れて、団らんを共にするなどし、また、両名の葬儀の喪主を務めた(乙一七、二一、証人池田光年、同甲野月子)。
(三) 亡太郎と原告とは、原告が家族を連れてたまに亡太郎を訪問し、あるいは電話をする程度で、盆暮などに定期的に、あるいは頻繁に往来する関係でもなかったが、原告ら家族が訪問したときは、原告の子らを可愛がった(証人甲野月子)。
また、亡太郎は、原告に対し、金四、五〇〇万円を貸し、一郎も原告の借金の保証人になるなどしていた(原告本人、乙二一)。ただし、一郎は、保険会社調査員に対し、原告の存在を知ったのは平成五年一二月ころから二年程前のことであり、原告は亡太郎や一郎を自己のため利用しただけである旨述べている(乙二一)。
(四) 亡太郎は、不動産業をしていたが、平成四年六月に原告を亡花子の息子の友人である旨不動産業者に紹介して、那珂町内の土地を購入させたが、原告は建物を建築したいと望んでいたにもかかわらず、市街化調整区域内の土地であったため建物が建てることができなかった(乙一五、一六、二一)。
なお、被告らは、右取引について、亡太郎は原告から仲介手数料を取ったと主張するが、その事実を証明するに足りる証拠はない。
2 原告の経済状態
(一) 原告は、中学校を卒業後、電機会社の外線工事従業員として約七年間、交通信号機の設置会社の従業員として約一年間それぞれ稼働した後、運転手として稼働するようになり、平成四年六月に山砂等の販売、運搬業を目的とする有限会社宮内商事を設立し、ダンプカー等五、六台を保有して営業していたが、平成四年一二月と平成五年二月に不渡りを出し、七、八千万円の負債を抱えて事実上倒産した(甲三〇、原告本人、乙一五、一七、証人池田光年、弁論の全趣旨)。
(二) 原告は、昭和六三年三月から茨城県東茨城郡大洗町<番地略>の賃貸マンションを家賃六万二〇〇〇円で借り、妻の甲野月子及び子三名とともに生活していたが、当時一〇月分の家賃を延滞しており、以前にも家賃を三か月分滞納して、家主に鍵を交換されたことがあった(乙一五)。
(三) 原告は、茨城県行方郡北浦村の妻の実家の近くに金二八〇〇万円余の費用をかけて、新居を建築し、平成五年三月ころ完成したが、予定した住宅金融公庫の融資が受けられなかったために建築費用が支払えず、しばらく引渡しを受けることができず、後に建築請負をした日本電建株式会社との間で分割弁済の話し合いが整い、同年一二月に引渡しを受け、所有権保存登記をしたが、平成六年ないし七年には日本電建株式会社や日本信販株式会社等により差押えがされている(乙一五、一六、一七、二一)。
(四) なお、証人甲野月子は、有限会社宮内商事が倒産後も原告の稼働により月額四〇万円程度の収入があったとするが、その供述の裏付けがなく、ただちに採用できない。また、仮にその程度の収入があったとしても、多額の債務を負っていたことから、生活は苦しかったものと推認される。
3 本件各保険契約について
(一) 原告の本件各保険契約締結の動機として、原告本人は、亡太郎が平成二、三年ころから、原告に対し、「何も残すものがないから保険契約をするように。」と言われていたと供述し、また、裁判所の釈明に対し、第二回口頭弁論期日においては、平成五年初めころ、糖尿病などで健康状態が思わしくないので保険に加入しておくようにと言われた旨主張し、後記鬼沢に対しては、亡太郎は不動産ブローカーをやっていて羽振りも良く、よく酒を飲んで歩くので事故が起きると大変だから保険に入りたいと述べたことが認められ(証人鬼沢富士男)、また、本件保険契約三については、貯蓄も兼ねるので満期返戻金のできるだけ高額なものがよく、あるいは、入院給付金が増えた方がよいと考えた旨主張し、原告本人及び証人甲野月子もこれらに沿う供述をしており、原告の主張や供述は一貫していない。しかしながら、前示1の事実によれば、原告と亡太郎との仲は悪かったとは断言できないまでも、亡太郎が自発的に自己を保険に付するように申し向けるような関係であったか否か疑問であり、また、亡太郎が病気であったか否か、羽振りが良かったかどうかについてはこれを裏付ける証拠もなく、そして、前示のようにその経営する会社が倒産した上、その借金及び住居建築費用の月々の弁済等で苦しい状態にあった原告が保険料の高い貯蓄型の保険契約を望むのは不自然であることなどからすれば、本件保険契約はその動機における合理性、あるいは必要性を見出しがたいものであるといわざるを得ない。
(二) 本件保険契約一、二について
原告は、被告大東京火災の保険代理店を営む大沼真二(以下「大沼」という。)を通じて、自己が営業に用いていた自動車について、自動車保険契約を締結していたが、保険料の支払を滞って失効させ、再度契約をするといった状態を繰り返していた。そして、原告は、大沼に対し、当初父親に生命保険を付けたい旨相談したが、保険外交員をしている大沼の妻が原告と話をした結果、亡太郎が高齢なので生命保険は無理であるとの結論に達し、大沼の勧めもあって、同人を通じて普通傷害保険である本件保険契約一、二を締結した(証人大沼真二、乙四ないし八の各一、二、第九、一〇の一、二、第二四、原告本人)。
(三) 本件保険契約三について
被告興亜火災の保険代理店を営む鬼沢富士男(以下「鬼沢」という。)と羽深久仁子(以下「羽深」という。)、原告及び月子は、それぞれ子供が同じ学校に通っていたことが発端で知り合いとなっていたところ、羽深は、鬼沢の紹介により、平成四年一二月一日に、月子は、鬼沢の妻の紹介により、平成五年四月一日に、それぞれ被告興亜火災に直営研修生として入社した。また、当時、羽深と原告夫妻は同じマンションの同じ階に居住していた。そして、羽深は、月子の申入れにより、平成五年八月に、原告との間で被告興亜火災の積立ファミリー交通傷害保険契約を締結したところ、約一か月後に原告からもっと大きな金額の保険に入りたい旨の申し込みを受け、本件保険契約三の加入手続をした(証人鬼沢富士男、同羽深久仁子、乙二二ないし二五)。
(四) なお、月子は、本件各保険契約締結前である平成五年八月中旬ころに、被告興亜火災従業員滝口英臣(以下「滝口」という。)に対し、内縁の夫婦関係にある男女間において、夫が死亡した場合に、夫に子があっても、内縁の妻に遺産が配分されるか否か、保険契約において死亡保険金受取人を指定していなかった場合はどうかなどと質問をした(乙二三、証人滝口英臣)。
さらに、原告は、本件保険契約三締結後約一週間後、本件殺人事件の約一週間前に、鬼沢に対し、保険金額の高い保険に加入したい旨申し込んだが、同人から断られた(乙二二、証人鬼沢富士男)。
4 本件殺人事件について
証拠(甲一六、一七の一ないし五、第一八の一ないし四、第一九の一、二、第二〇の一ないし五、乙一五、一七、二一、証人池田光年、同甲野月子、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(一) 亡太郎及び亡花子が殺害される前の、平成五年一〇月一二日夜には、一郎及びその家族が亡太郎宅を訪問し、九時ころまで団らんの時間を過ごして帰宅したが、亡太郎又は亡花子が、翌一三日朝一郎の五歳の子を幼稚園に送る約束をしていたにもかかわらず一郎宅に行かなかったので、一郎の妻が不審に思い、同日午後一時過ぎころ月子とともに亡太郎方を訪れてみた。そうすると、玄関の戸が施錠してあったので、これを開けて入ってみたところ、亡太郎と亡花子が殺害されていた。なお、当時一か所ガラス戸に施錠がされていなかった。
(二) 被害者両名は、発見時パジャマ姿であり、亡太郎は鈍器で頭部を殴られたような頭蓋骨骨折及び左首に刃物で刺されたような刺傷があり、亡花子にも同様の頭蓋骨骨折があって、司法解剖の結果、亡太郎の死因は脳挫傷及び首刺傷からの失血、亡花子の死因は脳挫傷と診断された。
(三) 発見時被害者両名の顔に白いハンカチが掛けてあったか否かについては当事者双方の主張が対立しているが、乙第一五号証には伝聞として「甲田さんの方には顔にハンカチが掛けてあった」との記載があり、原告本人は被告ら代理人の「警察官が現場に行ったとき、死体の顔に白いハンカチと布団が掛かっていたと聞いていませんか。」との質問に対し、「聞いています。」と答えているが、両名の顔なのか亡花子の顔なのか不明で、かつ第一発見者の報告ではなく、警察官が現場に行ったときの報告であるとすれば必ずしも犯人が掛けたとは限らないから、これらの証拠からハンカチが掛けてあった事実及び犯人が掛けた事実を認定するのは無理である。
(四) 本件殺人事件は、強盗あるいは怨恨などの観点から捜査され、また、原告及び月子らも被疑者として取調べを受けた。右取調べは保険金目当ての殺人捜査と推測されるもので、ポリグラフ検査を伴い、かつ、長時間に及ぶ厳しい取調べであったが、逮捕等の強制捜査には到らなかった。
5 以上の事実をもとに、本件殺人が原告の故意により生じたものであるか否かにつき検討するに、本件各保険契約締結の動機ないし必要性につき合理性が認められないこと、また、右契約締結のきっかけないし動機が亡太郎の申出ないし勧めによるものとは認められないこと、原告は本件保険契約締結当時経済的に苦しい状態にあったこと、にもかかわらず、そのような時期に、締結を急ぐ必要性が認められず、かつ、保険料が多額な保険契約を締結したこと、そして、本件保険契約一、二の締結後一か月余、同三の締結後約二週間後という近接した時期に本件殺人事件が発生したこと、並びに本件各保険契約締結の前後に、あたかも右契約締結が亡太郎の死亡保険金目当てになされたかのように疑わせる事情が存することなどからすると、本件殺人に原告が何らかの関与をしたものと推測することも可能ではあるが、しかしながら、右事情は必然的かつ直接に原告の故意による関与を証明するわけではなく、右はすべていわゆる間接事実であって、本件においては原告の本件殺人への具体的関与を示す証拠は提出されていないから、右事情のみでは、原告が本件殺人を故意に生じさせたものと認定することはできない。
二 被保険者亡太郎の同意の有無について
1 前示のとおり、亡太郎が、原告に対し、あらかじめ包括的に被保険者となることにつき同意をしていたと認めることはできない。
2 証拠(乙一、二の各一、第二四、証人大沼真二、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、大沼は、原告方事務所において、原告及び月子の同席のもと本件保険契約一、二の申込書を作成する際、被保険者の同意欄以外の部分については月子と手分けして記入したが、右欄については亡太郎本人の署名捺印を得るよう指示したこと、それにもかかわらず、原告及び月子は原告の息子に亡太郎の署名をさせたことが認められる。そして、原告本人は、本件各保険契約の締結について亡太郎に連絡し、承諾も貰っている旨供述するが、右供述は具体性に乏しい上、特に大沼から指示され、亡太郎に署名捺印をしてもらうことに困難は認められないにもかかわらずそうしなかったこと、保険のことについては一郎らも全く聞いていなかったこと(乙二一)などに照らすと、にわかに信用できない。
したがって、本件保険契約一、二について、亡太郎から同人を被保険者とすることにつき同意を得た事実を認めることはできない。
3 証拠(乙三 証人滝口英臣、同羽深久仁子、同甲野月子)によれば、羽深が滝口のもとへ被保険者同意欄に署名捺印のない本件保険契約三の申込書を持参したので、滝口は、羽深及び月子を面前に呼んで、重要な事項なので必ず本人に署名捺印を貰ってくるように指導したこと、その際月子は会社に甲山姓の印鑑があるかどうか尋ねたこと、そして、羽深は亡太郎の署名捺印を貰うことを月子に委ねて申込書を月子に渡したこと、月子は自ら署名捺印をしたことが認められる。そして、月子は、同女が亡太郎の承諾を得た事実はないが、原告が得たであろうと供述するが、原告がいつ、どのように得たかについては知らないと供述する。この点につき原告本人は、亡太郎に連絡して承諾も貰っている旨供述するが、採用し得ないことは2のとおりである。
したがって、本件保険契約三について、亡太郎から同人を被保険者とすることにつき同意を得た事実を認めることはできない。
三 通知義務及び告知義務違反の有無について
1 通知義務違反の有無について
本件保険契約一、二と同三とは同一種類の保険契約と解されるところ、証拠(乙二四、証人大沼真二、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件保険契約一、二を締結する際、大沼に対し、被告興亜火災と積立ファミリー交通傷害保険契約を締結していることは伝え、大沼もこれを承知していたが、本件保険契約一、二の締結後に、本件保険契約三を締結しようとする際、事前又は事後にその旨を被告大東京火災又は大沼に通知をしなかったことが認められる。
なお、甲第一二号証には、大沼が「告知」を受けた旨記載されているが、右書面はいわゆる証明書であるところ、本件保険契約一、二締結後原告と大沼がいつ、どこで、どのような方法で本件保険契約三の締結を報告し、承認を求めたのか具体性がなく、証明力に乏しいから、右書証をもってただちに通知があったと認めることはできず、また、本件全証拠に照らしても右具体的事実を証明する証拠はない。
2 告知義務違反の有無について
本件保険契約三の申込書における申込みに関する事項は、月子が記入したものであるところ、右申込書の「他の保険契約」欄は空欄となっており、証人羽深久仁子及び同滝口英臣は、原告又は月子から、本件保険契約三の締結に際して、既に本件保険契約一、二を締結している事実の報告を受けていない旨供述している。これらの証拠によれば、原告は、本件保険契約三を締結する際、本件保険契約一、二を既に締結している事実を告知しなかったものと認められる。
なお、1と同様の理由により、甲一二号証は信用性に乏しく、採用できない。
四 以上によれば、本件各保険契約は、無効であるか、又は、解除により消滅したといわなければならない。
よって、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判官坂野征四郎)